第1章 4話 神託と石板
4話 神託と石板

「そうです。神託というのは神から授かった力で、人々の願いや問題を解決することができるんです。巫女というのはその力を使える人々のことで、私たち巫女はこの森の奥にある神社で働いています」
さくらは説明した。
「神社?」
すばるは見渡した。確かに、森の中に赤い鳥居と白い建物が見えた。それが神社なのだろう。
「そうです。神社というのは神様が住む場所で、私たちはそこで神様に仕えています。神様から神託を受けて、人々に伝えたり、助けたりしています」
さくらは言った。
「へえ……」
すばるは感心した。この世界には神様や神託や巫女というものは元の世界と同じくあるのだと知った。ただ抽象めいたものだった自分の世界のものとは全く違うものだった。
「でも、あなただけじゃなくて、私もこの神社に来てからまだ数か月しか経ってないんだよね…です」
はっとした顔に気がついたすばるはさくらに言った。
「あ、敬語じゃなくていいよ。俺もできれば、似ている人が同級生だからさ」
「よかった。ありがとうございます!….じゃなくてありがとう」
彼女の顔から自然な笑みがこぼれた。
彼女は数か月前からの記憶がなく、路頭に迷っていた所を拾われたのだという。
「私生まれつき神託が使えるような性質だったみたいで、それで巫女さんが見つけてくれたの。それでそのまま神社にお世話になることになって」
さくらは神社のお手伝いをする代わりに、先輩に神様や神託について教わり、少しずつ神託の使い方を覚えていた。
「私も最初は戸惑ったけど、この世界は結構楽しいよ。神託ってすごい力だし、人々に喜ばれるし」
さくらは笑顔で言った。すばるは彼女の笑顔に心を打たれた。さくらは元の世界でも気になっていた、いやもしかしたら好きな女性候補だったが、この世界ではさらに魅力的に見えた。
「でも、元の世界に戻るにはどうしたらいいのだろう?やり残したことがあるんだ」
すばるは疑問に思い口にした。
「うーん……そうだ!神社に一緒について来てくれる?ちょっと見てもらいたいものがあるの。どうせここは巫女以外は立入禁止区域だし」
特に行くあてもなかったすばるは、さくらに案内されるがまま横をついて歩いた。
道中人気はなく、ただただ鳥の鳴き声や、近くを流れる川の音しか聞こえなかった。
神社に着くと、さくらは神社の中にある神殿に案内した。
神殿には大きな石碑があり、その上に文字が刻まれていた。
「これが神からのメッセージなんだって」
さくらは石碑を指さした。すばるは石碑の文字を読んだ。
「導かれし者。世界への善行が別世界への道を創る。道の時間は有限でありまた無限に至る。」
すばるは驚いた。なぜか聞いたことがある内容だった。
これが転生の理由か?と心の中で思った。
「つまり、この世界でいいことをすれば、元の世界に戻れるってこと?」
すばるはさくらに聞いた。
「そういうこと….なのかな」
さくらは頷いた。
「でも、元の世界でやり残したことって何?」
さくらが聞くとすばるは考え込んだ。自分は元の世界で何をしていたか。覚えている、これだけは確かなもの。FXトレードだ。自分はFXトレードが好きだった。FXトレードが生きがいだった。FXトレードをすることで、自分は幸せだった。
「FXトレード……」
すばるはつぶやいた。
「FXトレード?それって何?」
さくらは不思議そうに聞いた。
「えっと……外国為替証拠金取引というもので、外国の通貨を売買して利益を得る方法だよ」
すばるは言った。
「外国の通貨?売買?利益?」
さくらは理解できなかった。この世界には外国も通貨もなかった。すばるはさくらにFXトレードの仕組みやルールや魅力を説明しようとしたが、彼女は全く興味を示さなかった。
「一言で言うとギャンブル、博打だよ」
すばるがそう言うと、少しは伝わったのかさくらが聞き返した。
「それって面白いの?」
「面白いよ。でも、難しいし、リスクもあるし、勝つには技術や知識や経験が必要なんだ」
すばるは言った。
「そうなんだ……でも、私にはわからないな」
さくらは言った。
「わからなくてもいいよ。とっても楽しいものなんだ。さくらもやってみる?勝てる方法はないから、頑張って勘を養うしかないんだけど。ただ最近は結構負けちゃってちょっと凹んでたんだ。」
すばるは言った。
「そんな大変なものなのに楽しいなんて不思議。んーそうだなー、でも、私には神託でたくさんの人を助けることがしたいから今はいいかな。」
さくらは言った。
「神託?」
すばるは聞き返した。
「うん。神託って、人々の願いを叶える力だから。あっこれはさっきも伝えたね。神託を通じて善行せよ。というのが巫女の使命なの。困ってる人を助ける感じかなあっもしかしたらFXトレード?ってのも何かできるようになるかもしれないよ。すばるが困ってるなら。」
さくらは言った。
「本当かな?」
すばるは考えた。トレードはしたい。ただ直近のトレードの負けたことを思い返すと、また胃がきりきり痛むようだった。
「試してみる?」
さくらは提案した。
「試すって、どうやって?」
すばるは聞いた。トレードの勘を取り戻せなければ元の世界に帰っても仕方がないすばるは、もし本当に何か助けてくれるのであれば異世界にきたかいがあるというものだ。
「それはね……」
さくらは神殿の入口に案内した。入口の前には神託を使うための道具が置かれており、さくらはその中から一つの小さな板を取り出した。
「これが神託を使うときに使う道具なの。って私も最近先輩から教わったんだけど。」
さくらは少し自慢げに板を見せた。板には文字が書かれていた。
「絵馬」
すばるは驚いた。
「これは絵馬だよね。元の世界にもあったよ。皆願いを書いて神様にお願いするものだよね」
「な~んだ、知ってたんだ。そうなの。願いがある人たちが神様に願い事を書くと、神託となってその人に刻まれるの。巫女はその神託を実現するために満月の夜に神を降ろして、舞を踊るの。そうすると神様が、その人が行った善行の数によって、願いの手助けをしてくれるんだ」
「え、ということは良いことをしてないと願いは叶わないの?」
「そんなの当たり前じゃない」
と驚いた顔でさくらは言った。
すばるはさくらの言ったことを理解しながら考えた。
つまり、元の世界に帰るには良いことをしないと帰れないし、ついでにそのときに何か神託とやらが助けてくれちゃうってことか。
「でも良いことってなにすればいいんだ?」
とすばるが言いかけたその時後ろから声がした。
「さ~く~ら~ちゃーん」